要点(まずはここだけ)
- 子どものうつは「悲しい」より、朝のつらさ/だるさ/イライラ/腹痛・頭痛などで目立つことがあります。
- 目標は「気分を上げる」より先に、睡眠・食事・登校など“生活機能”が戻る条件を整えることです。
- 不安、睡眠の乱れ、ネット/ゲーム、発達特性などが重なると長引きやすく、重なりを前提に支援を組み立てます。
- 心理支援と環境調整を土台に、必要に応じて薬は「補助輪」として慎重に組み合わせます。
- このページは自己診断のためではなく、状況整理と支援の選択肢をまとめる目的の情報です。
受診の目安(まずはミニチェック)
- 2週間以上、元気がない/イライラが強い/表情が乏しい状態が続く
- 朝が特につらく、遅刻・欠席が増えている(腹痛・頭痛・だるさを含む)
- 好きだったことへの興味が落ち、部屋にこもりがちになっている
- ゲーム/スマホが増え、生活リズムが崩れてきている
- 「消えたい」「いなくなりたい」などの発言、希死念慮や自傷が疑われる(安全確保を優先し、早めの相談が必要です)
- 詳しい「受診の目安・当院での対応」はページ末尾にまとめています。
はじめに
「笑顔が減った」
「朝起きられない」
「学校に行きたがらない」
思春期には誰にでも気分の波はありますが、こうした状態が何週間も続き、
学校・家庭・友人関係に支障が出ているときは、心のエネルギーが底をつきかけているサインかもしれません。
子どものうつ病は、単なる“一時的な問題”ではなく、心とからだの回復力が下がり、日常生活が回りにくくなっている状態です。
大人と違って、「気分が沈む」よりも「だるい」「イライラする」「頭が痛い」と表現されることも多いため、周囲が気づきにくいことが特徴です。
うつ病とは
うつ病(抑うつ状態を含む)は、感情や意欲、睡眠リズムなどを調整する脳のシステムがアンバランスになり、その影響が「気分」「考え方」「行動」「からだの症状」に出てくる状態です。
子どもの場合、次のようなサインとして現れることがあります。
- 元気がない/笑顔が減る
- イライラする/怒りっぽい(家族に強く出ることも)
- 朝がつらい/眠れない/昼夜逆転
- 腹痛・頭痛・だるさなど身体症状
- 集中できない/ミスが増える
- 登校しぶり/欠席が増える
- 好きだったことが楽しめない
ここで大事なのは、「気分の説明」だけで判断せず、登校・学習・睡眠・食事・対人など“生活がどれだけ回っているか”で整理することです。
子どもと大人の違い
子どもでは「気分の落ち込み」より先に、生活機能(登校・学習・対人)の低下として目立つことが多いことが特徴です。
大人で目立ちやすいサイン
- はっきりと「悲しい」「気分が沈む」
- 強い自責感や無価値感
- 睡眠障害(特に早朝覚醒)、食欲低下
- 仕事や家事が手につかない
子どもで目立ちやすいサイン
- 不機嫌・イライラ・怒りっぽさ(反抗期に見えることがある)
- 「疲れた」「だるい」「頭が痛い」「お腹が痛い」といった身体症状
- 朝がつらい/遅刻・欠席が増える(生活リズムが崩れる)
- ゲーム/スマホ時間の増加、部屋にこもる
- 宿題・テスト・部活への意欲低下、集中の低下
子どもの場合、これらのサインは「反抗期」「甘え」「だらしなさ」に見えやすく、本人のつらさが“性格”のせいにされてしまうと、回復が遅れやすくなります。
発達段階の特徴
乳幼児〜就学前(0〜5歳)
「気分の落ち込み」というより、元気がない・遊びが減る・泣きやすい・睡眠や食欲が乱れる、といった形で気づかれることがあります。背景に体調の問題や発達特性、家庭内ストレスが重なることも多いため、丁寧な評価が必要です。
学童期(6〜12歳)
- 朝の不調が続く(腹痛・頭痛・だるさ)
- 登校しぶり、遅刻・欠席が増える
- 家ではイライラが増え、家族と衝突しやすい
- 「どうせ無理」「疲れた」など自己否定的な言葉が増える
思春期前期〜中期(12〜15歳)
- 気分より「だるさ」「無気力」「睡眠の崩れ」が前面に出る
- 対人ストレスで急に学校がつらくなる/回避が増える
- ゲームやSNSに偏り、昼夜逆転に近づく
- 不安が強まり、回復が遅れやすい
思春期後期(16〜18歳前後)
- 将来や進路への不安が強まり、自己否定が前景に出る
- 遅刻・欠席・留年・退学など、進路に直結する問題として現れる
- 自立への期待と不安が交錯し、長期化しやすい段階
併存しやすい状態
児童・思春期では、うつ病が単独で起こるよりも、もともとの発達特性や不安、睡眠リズムの乱れ、身体面の不調などが重なって起こることが少なくありません。
- 不安が強い:回避が増え、睡眠も崩れやすく、回復が遅れやすくなります。
- ADHD/ASD特性:疲労や対人負荷が蓄積しやすく、イライラや「動けなさ」として前面に出やすくなります。
- ネット/ゲーム:つらさを下げる自己鎮静、短時間の達成感、距離のある交流の場として機能し、抑うつ期に増えやすいことがあります(全面禁止は逆効果になり得ます)。
- 身体症状(頭痛・腹痛・だるさ等):気分より先に前面に出て、登校や生活機能を崩しやすいことがあります。
併存を“例外”ではなく“前提”として整理することが、現実的な支援につながります。
診断と評価
受診は「診断名をつける」ためだけでなく、回復の条件(睡眠・活動・学校調整・家庭での関わり)を整理し、優先順位を決めるための機会として役立ちます。
当院では主に次を確認します。
- いつから、どんな場面で強まるか(経過・引き金)
- 生活機能(欠席・遅刻・早退、睡眠、食事、活動量、家庭の負担)
- 併存(不安、発達特性、睡眠の乱れ、身体症状、ネット/ゲーム等)
- 安全面(自傷・希死念慮の有無、切迫度)
- 学校情報(授業中の様子、提出物、成績変化、配慮状況)
支援と治療
診察で全体像を整理したら、次は“回復を邪魔している要因”から順にほどき、続けられる形で整えていきます。基本方針は次の3本柱です。
1)生活リズムと休息(とくに睡眠)
「早寝」よりも「起床の固定」を優先し、朝の光・朝食・日中の軽い活動で体内時計を整えます。夜のスマホ・ゲームは、単に禁止するのではなく、睡眠を守るためのルール設計(時間帯・場所・終わり方)として扱います。
2)心理教育と心理的支援(CBTなど)
本人とご家族が、「何が負荷で、何が回復に効くか」を理解することが出発点です。
負荷が高い時期は、目標を“元の100%に戻す”から“回復の足場を作る”に切り替え、守ること(睡眠・食事・最低限の登校や外出)と、手放す課題(無理な完璧主義、過剰な予定)を整理します。必要に応じて、認知行動療法(CBT)の考え方で、不安や自己否定を扱いながら回復行動を増やします。
3)薬物療法(必要な場合に、慎重に)
症状が強く、生活機能や安全に支障が大きい場合には、薬物療法を検討することがあります。児童・思春期では、効果と副作用のバランスを見ながら、少量から慎重に調整します。
- 気分の波が大きい場合は、見立てを丁寧に行い、治療を検討します。
家庭でのポイント
- 「怠け」「甘え」と決めつけず、症状を現実のものとして扱う
- 休養と活動のバランスを「一気に」ではなく「段階的に」
- 家庭内が“症状をめぐる会議”だけにならないよう、日常の小さな回復を増やす
- できていることを具体的に言語化し、自己否定のループを弱める
学校での配慮(合理的配慮の例)
- 登校時間の調整(遅刻・早退・分散登校)
- 課題量や締切の調整
- テストでの配慮(別室・時間延長など)
- 保健室・別室での休息スペースの確保
当院で大切にしていること
当院では、診断名だけをゴールにせず、その子の“地図”を一緒に描くことを大切にしています。
- 生活リズム・心理支援・家族支援をセットで行う
- 医師、心理職、精神保健福祉士などチームで対応する
- 学校や教育相談機関とも連携し、続けられる支援の形を探す
- うつ病だけでなく、不安・発達特性・ネット/ゲーム・身体症状など背景も含めて全体像を整理する
「どうしたら回復しやすいか」を、現実に続けられる形で一緒に組み立てます。
よくある質問(FAQ)
「思春期の気分の波」と「うつ病」はどう見分ければいいですか?
思春期にも気分の浮き沈みはありますが、うつ病では、気分だけでなく睡眠・意欲・集中・身体症状などがまとまって落ち、生活機能(登校・学習・対人)が“これまでと違って”回りにくい状態が続きます。目安として2週間以上続く場合は、整理してみる価値があります。
ゲーム/スマホが増えたのは、依存でしょうか?
うつ状態のとき、ゲームやスマホは「つらさを下げる」「短時間で達成感を得る」「距離のある交流ができる」など、自己鎮静として働くことがあります。最初から全面禁止にすると悪化することもあるため、睡眠を守る枠を作り、日中の回復行動を少しずつ増やす順で整えるのが現実的です。
「休ませる/行かせる」で迷います。
二択ではなく“段階づけ”が基本です。生活リズムを守りながら、短時間・別室・課題調整など「戻れる階段」を作ります。
薬は一度始めたら、ずっと飲み続けることになりますか?
状態が強い時期に、薬を“回復の補助輪”として使うことがあります。安定してきたら、再発リスクや学校・受験の予定も踏まえ、減量や中止を含めて検討していくのが一般的です。
国内外のトピックと当院のスタンス
近年は、診断名だけでなく「生活機能の回復(登校・対人・学習・睡眠)」を中心に治療を組み立てる考え方が重視されています。また、児童・思春期では併存(不安や発達特性、睡眠リズム、ネット/ゲーム、身体症状など)が経過を大きく左右するため、重なりを前提に設計することが現実的です。
当院では、国内外の知見をふまえつつ、日本の学校生活・受験・ご家庭の事情に合わせて、続けられる形に落とし込むことを大切にしています。
参考文献・ガイドライン
- NICE guideline NG134(2019)
- GLAD-PC(2018)
- AACAP CPG(2023)
- ICD-11/DSM-5-TR
まとめ
子どものうつ病は、「甘え」や「性格」ではなく、心とからだのエネルギーが大きく消耗している状態です。
早めに気づき、休養・環境調整・心理的支援・必要な薬物療法を組み合わせていくことで、多くの場合は回復が期待できます。
「反抗期だけではなさそう」「いつもの落ち込みと違う」と感じたときには、ご家族だけで抱え込まず、早めに相談先を利用してください。
受診のご相談へ
- 2週間以上、元気がない/イライラが強い状態が続く
- 遅刻・欠席が増え、生活リズムが崩れてきている
- 身体症状(腹痛・頭痛・だるさ)が続き、登校が回らない
- 「消えたい」発言、自傷や希死念慮が心配
受診は「診断名をつける」ためだけでなく、回復の条件(睡眠・活動・学校調整・家庭での関わり)を整理し、優先順位を一緒に決めるための機会として役立ちます。気になる状態が続くときはご相談ください。
監修・更新情報
監修:篠原一之(医師/医学博士/キッズハートクリニック外苑前院長/長崎大学医学部 名誉教授/長崎大学医学部 元教授)
最終更新日:2026年2月7日