不登校とは|子どもの特徴と支援
(幼稚園・保育園・小学生・中学生・高校生のご家族へ)
はじめに
前日は用意するのに、朝になると頭痛や腹痛を訴える。
玄関までは行けても、そこから先に足が進まない。
学校に行けた日でも、教室の前で固まってしまう──。
診察室では、こうしたお話をよくお聞きします。
「甘えなのか、病気なのか」
「このまま休ませていいのか、無理にでも行かせるべきなのか」
保護者の方が揺れるのは、当然のことです。
不登校は、いまやどの学校にも起こりうる身近な状態です。文部科学省の調査では、小中の不登校は 353,970人(小137,704/中216,266) と報告されています1)。
そして多くの場合、背景には1つの原因だけではなく、発達特性(ASD・ADHD・学習障害)、不安・抑うつ、PTSD(トラウマ反応)、睡眠リズムの乱れ、家庭や学校の環境変化などが重なっています。
当院では、不登校を「行けない/行かない」という結果だけで捉えるのではなく、
その子の脳の特性・気質・これまでの経験をふまえた“心身からのサイン”として受け止め、
お子さんとご家族、そして学校と一緒に「これからどう立て直していくか」を考えていきます。

不登校とは?──「怠け」ではなく心身からのSOS
一般的に不登校とは、病気や経済的な事情がないのに、年間30日以上の欠席が続き、心理的な要因が背景にある状態を指します。
よく見られる様子としては、次のようなものがあります。
- 朝になると頭痛・腹痛・吐き気を強く訴える
- 学校に行こうとすると、涙・震え・動悸などの強い不安が出る
- 「行こうと思えば行ける気もするけど、体が動かない」と訴える
- 家では一見元気に見え、ゲームや動画に集中している
- 月曜や連休明け、行事の前など“特定のタイミング”で悪化する
一見すると「さぼっている」「家では普通だから問題ない」と誤解されがちです。
でも実際には、心と体が限界に近づいているサインであることが多く、性格やしつけだけでは説明できません。
不登校の背景にあるもの
不登校の背景には、複数の要因が同時に関わっていることがほとんどです。
1. 発達特性・神経発達症
自閉スペクトラム症(ASD)
集団の“空気”を読み続ける負担、予定変更への弱さ、感覚過敏(音・光・におい等)により、学校が非常に疲れる場になりやすくなります。
ADHD(注意欠如・多動症)
忘れ物・ケアレスミス・じっと座る苦手さなどで注意される機会が増え、自己肯定感の低下や登校への抵抗感につながることがあります。
学習のつまずき(読み書き・計算など)
努力しても成果が出にくい体験が続くと、「授業そのものが怖い」「恥をかきたくない」という気持ちが強くなり、不登校に結びつくことがあります。
2. 不安・抑うつ
- 親との別れがつらい「分離不安」
- 人前での注目が怖い「社交不安」
- 気分の落ち込み・意欲低下が続く「うつ状態」
こうした状態があると、「行く気がない」ではなく「行きたくても動けない」になりやすいです。
3. PTSD(トラウマ反応)・強い恐怖
いじめ、暴力、事故、強い叱責、教室での“怖かった体験”などがきっかけで、学校や特定の場面が危険信号として脳に刻まれてしまうことがあります。
たとえば、
- 学校や特定の先生の名前を聞いただけで涙が出る
- 似た声や足音、チャイムで体が固まる
- 夜に夢やフラッシュバックのような形でよみがえる
このようなときは、「慣れれば大丈夫」方式で無理に刺激を重ねると悪化することがあります。
まずは安全と安心を最優先に、負荷を丁寧に調整することが大切です(PTSDの評価と支援は、国際的にも“段階的・安全優先”が基本です)2)。
4. 睡眠・生活リズムの乱れ
夜更かし、昼夜逆転、朝の光不足、長時間のスマホ使用などで、朝のエネルギーが出にくくなります。
睡眠の乱れは“原因でもあり結果でもある”ので、早い段階で整えるほど立て直しやすくなります。
5. 学校・家庭の環境変化
- いじめ・からかい・SNSトラブル
- クラス替え、担任変更、部活の上下関係
- 受験や成績へのプレッシャー
- 家族の病気・転居・離別など家庭の変化
もともとの特性の上にこうした出来事が重なると、「これ以上、今のやり方では耐えられない」というサインとして不登校があらわれることがあります。
発達段階ごとに見られやすい不登校・行きしぶりのかたち
乳幼児〜就学前(0〜5歳)
この時期は厳密には「不登校」より、登園しぶり・母子分離不安として出やすい時期です。
- 園の門の前で泣いて離れられない
- 朝になると「お腹が痛い」「気持ち悪い」
- 行ってしまえば楽しそうでも、翌日はまた行けない
背景に、不安の強さ、感覚過敏、ことばの発達のゆっくりさなどが隠れていることもあります。
長く続く場合は、のちの不登校や社交不安の前ぶれになることもあるため、園との連携や不安への対処を早めに整えることが大切です。
小学生期(6〜12歳)
義務教育のスタートとともに、「学校不安」「登校しぶり」が表れやすくなります。
- 朝に頭痛・腹痛で動けない/保健室や校門で止まる
- 友だち関係のトラブルをきっかけに急に行けなくなる
- 宿題・テストへのプレッシャーで「勉強の日がつらい」
低学年では母子分離不安や感覚過敏、高学年ではいじめ・勉強のつまずき・習い事の負荷が重なりやすくなります。
「努力不足」「甘え」と片付けず、特性と学校環境の“ミスマッチ”を丁寧に見ていくことが重要です。
思春期前半〜中期(12〜15歳)
不登校が増えやすい時期です。身体の変化、成績・進路、友人関係の複雑さが一気に押し寄せます。
- クラスや部活がつらく、朝になると体が動かない
- SNS・オンラインでのトラブルから教室に入れなくなる
- 「虚しい」「将来が真っ暗」など抑うつを背景に休みが増える
この時期は、PTSD(強い叱責・いじめ等)、社交不安、うつ病など“治療が必要な状態”が絡むこともあります。
「学校に行く/行かない」だけでなく、自己肯定感やアイデンティティにも影響しやすいので、医療・学校・家庭が同じ情報を共有しながら支えることがとても大切です。
思春期後期〜若年成人(16〜20歳前後)
高校・高専・定時制・通信制・専門学校・大学など、進路が分かれる時期です。
不登校・中退・長期欠席があるときは、「進路の選び直し」と「心身のケア」を同時に考える必要があるケースが増えます。
- 休むことで回復し、通信制や別の環境で再スタートできる
- うつ・不安・睡眠障害が前景に出て、治療優先が必要になる
- 発達特性が背景にあり、環境調整で大きく変わることがある
“戻す”より“整えて選び直す”ほうが、長い目で見て安定することも少なくありません。
不登校のある子どもが抱えやすい困りごと
不登校は「学校に行けない」だけで終わりません。生活全体に波及します。
- 昼夜逆転、食欲低下、頭痛や腹痛
- 自分を責める/「どうせ無理」と感じる
- 友だちとの距離が広がり孤立感が強まる
- 親子関係が“登校の話題”だけになりやすい
- ゲームやスマホが唯一の逃げ場になり、止めにくくなる
ここで大事なのは、困りごとを「気合いで押し返す」より、立て直す順番を間違えないことです。
「行かせる」か「休ませる」か迷ったとき──優先順位はこう考える
よくある悩みが「無理に行かせたほうがいい?休ませたほうがいい?」です。
現場感覚で言うと、答えは二択ではなく、優先順位の設計です。
まずは「安全」──危険サインがあれば“回復優先”
次のようなときは、登校刺激が強すぎる可能性があります。
- 学校に関連するとパニック・過呼吸・震えが出る
- 学校や先生の話題だけで固まる/涙が止まらない
- 夢・フラッシュバック・強い回避が続く(PTSD疑い)
- 抑うつが強く、希死念慮や自傷が疑われる
- 眠れない・食べられないなど体力が落ちている
この場合は「行かせる」より、まず安全と安心を整えることが最優先です。
次に「生活」──回復の土台を作る
休むとしても、生活が崩れきると回復に時間がかかります。
起床・就寝、朝の光、食事、最低限の活動を一緒に整えていきます。
その次に「つながり」──学校と“細く長く”つながる
完全に切れてしまうと、戻るハードルが上がります。
担任・養護教諭・別室など、本人が耐えられる形で関わりを残します。
最後に「学び」──学校以外も含めて選択肢を持つ
教育支援センター、オンライン、別室、個別支援、通信制など、国も多様な学びを推進しています(COCOLOプラン)3)。
「学校に戻る」だけが正解ではありません。回復と成長に合う道を一緒に探します。
「休ませる」ことと「放置する」ことは違う
休ませる判断は、甘やかしではありません。
ただし、放置にならないように“回復の道すじ”を作ります。
- 生活リズムの最低ラインを決める(起床・食事・入浴など)
- 安心できる活動を少し残す(散歩、買い物、短い運動など)
- 学校との連絡は「ゼロにしない」(負担にならない頻度で)
- 家の中での役割を少しだけ持つ(小さく、失敗しにくく)
ポイントは「叱って動かす」ではなく、安全に動ける範囲を増やすことです。
強い恐怖やPTSDが疑われる場合──“慣らす”より“安全設計”
PTSDが疑われるとき、よく起こるのが「行けば慣れるはず」という善意の押し込みです。
でも、トラウマ反応は“慣れ”ではなく“再び怖い体験をする”として上書きされることがあります。
たとえば、
- 学校や特定の先生の話題で体が固まる
- 似た声や足音、チャイムで動けなくなる
- 夜に夢で繰り返し見る
このようなときは、刺激をいったん下げて、安全と安心を確保しながら、必要に応じてトラウマに焦点を当てた心理療法(TF-CBTなど)を検討します。国際ガイドラインでも、子どものPTSDではトラウマ焦点化CBTが中心に位置づけられています2)。
不登校の診断と評価──「背景の地図」を描き直す
不登校は“症状名”というより“状態”です。
だからこそ、背景の地図を丁寧に描くことが支援の出発点になります。
当院では、必要に応じて次のような点を確認します。
- 困っている場面の具体的エピソード(いつ・どこで・何がつらいか)
- 発達歴(小さい頃からの特性、感覚、こだわり、友人関係)
- 学習のつまずき(読む・書く・計算、板書、提出物など)
- 不安・抑うつ・トラウマ症状、睡眠リズム
- 家庭・学校の環境(クラス、担任、部活、いじめ、SNSなど)
必要に応じて、
- 認知機能検査(WISCなど)
- 発達特性を評価する質問紙
- 不安・抑うつ・トラウマ症状の評価尺度
などを組み合わせ、「その子のプロフィール」を整理します。
不登校の支援と治療
支援は“正論で説得する”ことではなく、回復の条件をそろえることです。
1. 生活リズムの調整(支援の土台)
- 起床・就寝時間を一定にする
- 朝の光を浴びる・朝食をとる
- 昼寝や夜間の長時間スマホ視聴を見直す
睡眠と生活リズムは、不登校支援の「土台」です。必要に応じて体調評価や睡眠障害の確認も行います。
2. 環境調整と登校のステップづくり
- 保健室登校・別室登校・短時間登校など「行きやすい形」から
- テストや提出物の配慮、席、刺激(音・光)の調整
- オンライン授業、教育支援センター等との連携
- PTSDや強い不安がある場合は、刺激の強い場面を避けつつ“つながり”を残す
3. 心理的支援
- 不安に対する認知行動療法(CBT)
- トラウマに対するトラウマ焦点化CBT(TF-CBT)
- 自己肯定感を支えるカウンセリング
- 家族でのコミュニケーションを整える面接
「なぜ行けないのか」を責めるためではなく、「どうしたら少し楽になれるか」を増やすために行います。
4. 薬物療法(必要な場合のみ、補助として)
強い不安・抑うつ・睡眠障害が続き、生活の立て直しが難しい場合、薬物療法を検討することがあります。
目的は「薬で登校させる」ではなく、回復の妨げになっている症状を軽くして、支援が入りやすくすることです。必要最小限の量から慎重に用います。
不登校の中で見えにくい「強み」
不登校の期間は、「何もしていない時間」に見えるかもしれません。
でも実際には、見えにくい形で力が育っていることもあります。
- 好きな分野の本や動画から知識を深めている
- ゲームや創作活動の中で、集中力や工夫を発揮している
- 人間関係で傷ついた分、“安心できる距離感”を学び直している
- 自分のペースを取り戻す中で、回復の感覚をつかみ始めている
支援の役割は、こうした芽をつぶさず、現実の生活・学びにつなげ直すことです。
当院でできること
- 不登校の背景を整理する評価(発達特性・不安/抑うつ・トラウマ・睡眠・学習)
- ご家庭での関わり方の具体化(声かけ、生活リズム、スマホとの付き合い方)
- 学校への情報共有の助言(配慮事項、段階的登校、別室利用など)
- 必要に応じた心理支援(CBT、TF-CBT、家族面接など)
- 症状が強い場合の治療(睡眠・不安・抑うつ等への医学的サポート)
受診の目安
次のような状態が続く場合は、早めの相談をおすすめします。
- 欠席が増えてきた(週1〜2回→週の半分以上など)
- 頭痛・腹痛など身体症状が続き、朝に動けない
- 不安・パニック、強い恐怖反応がある
- 眠れない/昼夜逆転が進んでいる
- 抑うつが強い、希死念慮や自傷が疑われる
- いじめや強い叱責など「怖い体験」が関係していそう
- 発達特性や学習のつまずきが背景にありそう