発達障害(神経発達症)
発達障害は、DSM-5というアメリカの精神疾患の診断マニュアルによって、神経発達症としてまとめられるようになりました。 神経発達症は、知的能力障害、自閉スペクトラム症(ASD後述)、注意欠如・多動症(ADHD後述)、限局性学習症、チック症群(チック後述)、その他が含まれます。
ここでは、1.知的能力障害(知的発達症)、境界知能、2.限局性学習症の概略を説明します。
原因
遺伝的要因やさまざまな環境的要因が相互に影響しあって、先天的な脳機能障害が生じ、その結果発達障害の症状が生じると考えられています。
しかし、その障害が発症する詳細なメカニズムや、なぜその脳機能障害が引き起こされるのかは、まだはっきりとわかっていません。発達障害の症状は多岐にわたり、その原因も多様であると考えられています。
知的発達症(知的能力障害)、境界知能
「知的発達症」は、18歳未満の発症で、知的機能は平均より低く(IQ70以下)、社会的・概念的・実用的な適応機能に制約がある状態です。さまざまな環境で、自立した生活、社会参加が難しい状態です。
「境界知能」はIQが70-84で、人口の約14%にのぼりますが、知的発達症には該当しないため、特別な支援を受けられません。
治療や訓練によって、知能が正常域に移行する事は稀で、勉強や運動、コミュニケーションなどが、常にわずかに遅れながら家庭や学校に参加するので、自己評価が低くなりがちで、孤立感を持ちやすいです。
「やればできるのに怠けている」と厳しく接せられると、子どもたちは二次的に情緒や行動の問題(うつ、無気力、不登校、引きこもり、家庭内暴力、自傷行為など)を生じます。
子どもが十分に理解し、吸収できるような教育上の配慮をすることで、二次的な問題を予防できます。
限局性学習症(SLD)・学習障害(LD)
限局性学習症は従来学習障害(LD)とも呼ばれ、全般的な知的発達に遅れは無いですが、読む(文章を正確に読んで理解するのが難しい)、書く(文字を正確に書くことや、筋道を立てて文章を作成するのが難しい)、計算する(暗算や筆算など、数の概念を理解することが難しい)ことに支障がある状態です。
自閉スペクトラム症(自閉症)
言葉や、言葉以外の方法、例えば、表情、視線、身振りなどから相手の考えていることを読み取ったり、自分の考えを伝えたりすることが苦手で、特定のことに強い興味や関心を持っていたり、こだわりが強いことが特徴です。 自閉スペクトラム症は、生まれた時から認められる脳の働き方の違いによって起こるもので、親の子育てが原因ではありません。
症状や特徴
自閉スペクトラム症の症状は、幼少時から認められます。
- 目と目が合わない
- 笑いかけてもほほえみ返さない
- 指さしが少ない、模倣が少ない
- 言葉の発達が遅い
- 語彙が広がらない
- こだわりが強い
- 感覚の過敏さがある
- 集団行動ができない
上記のような特徴があり、乳幼児検診で指摘されることがあります。 しかし、知的発達に遅れがなく、言葉の発達が良好である場合には、コミュニケーションの苦手さがカバーされ、思春期以降に初めて診断を受けることもあります。
思春期になると、マイペースであったり、空気を読むのが苦手、会話が苦手なことから、友だち付き合いがうまくいかないことがあります。 その結果、不登校となり病気に気づかれることもあります。 知的機能によって、アスペルガー症候群、高機能自閉症という分類がありましたが、現在、知的機能による分類はありません。
原因
自閉スペクトラム症の原因はまだ特定されていませんが、多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる、生まれつきの脳の機能障害が原因と考えられています。
胎内環境や周産期のトラブルなども、関係している可能性があります。親の育て方が原因ではありません。
注意欠如・多動症(注意欠陥・多動性障害・ADHD)
注意欠如・多動症(ADHD)とは、不注意(集中力がない)、多動性(落ち着きがない、待てない)、衝動性(思いつくと行動してしまう)などといった特徴がみられ、そのために日常生活を送るのが困難になっている状態です。
12歳以前からこれらの行動特徴があり、学校、家庭、職場などの複数の場面で困難がみられる場合に診断されます。
症状や特徴
不注意
授業や会話に集中し続けることが難しい、忘れ物が多い、うっかりミスが多い、ちょっとした刺激ですぐに気がそれてしまうなどの特徴があります。
多動性及び衝動性
動きが多く落ち着かない、じっとしていることができないので、授業中に席から離れるなどの特徴があります。また、突発的な言葉や行動も多いです。小学校低学年までは、対人関係で、ついカッとして、暴力的な言動が見られることもあります。
ADHDは、これら症状の現れ方によって、不注意優勢型、多動・衝動性優勢型、混合型に分類されます。
また、ADHDの子どもは、うつ病、双極性障害、不安症などのこころの不調を伴っていたり、自閉スペクトラム症、限局性学習症(学習障害)、チック症、などの神経発達症(発達障害)を伴っていたりすることもあるので、確実な診断をすることが必要です。
チック症・トゥレット症
チックは、意図せずに思わず起こってしまう体の動きや発声です。多くの子どもには一時的に現れますが、そのまま軽快します。
しかし、多種類の運動チックと一つ以上の音声チックが1年以上にわたり持続し、日常生活に支障を来す場合にはトゥレット症とよばれます。 トゥレット症は、4~6才に症状が出現し、症状は10~12歳ぐらいに一番強くなり、多くの場合、成人になると改善するという経過をとります。
トゥレット症の症状は緊張度によって異なるため、ストレスや厳しい子育てによる心理的な原因で現れると「誤解」されることがありますが、体質的な疾患で、脳の働き方の違いによって起こるものです。
症状や特徴
チックは、顔や手足が動く運動チックと、発声や言語の特徴による音声チックに分けられます。
運動チック(顔面や首、肩などの筋が不随意的に収縮を繰り返し)
- まばたき
- 顔しかめ
- 首振り
- うなずき
- 口ゆがめ等
音声チック
- ンンン、という声が出る
- 鼻をすする
- 咳払い等
上記に述べた単純チックは単純な動きを示しますが、複雑運動チックは、体の後方にそらす、拍手、ジャンプ、四肢の屈伸、等、より複雑な日常動作を繰り返すような症状、複雑音声チックは、無意味な言語、反復言語、汚言(卑猥な言葉や罵倒する言葉など、悪い言葉を繰り返す)、反響言語(おうむ返し)などがあります。