子どもの双極性障害(双極症)とは

要点(まずはここだけ)

睡眠の問題は「早寝させる」だけでは整いにくく、順番が大切です。基本は次の3段階です。

  • 双極症は「気分」だけでなく、睡眠・活動量・思考の速度がセットで波(エピソード)として変化し、生活に影響が出る状態です。
  • 子どもでは典型的な「ハイテンション」より、イライラ・衝突・夜更かし(睡眠の削れ)として目立つことがあります。
  • 見立ての鍵は「その場の気分」ではなく、時間軸(数日〜数週)で、睡眠×活動量×生活機能を揃えて見ることです。
  • 支援は、安全の確保→睡眠・生活リズム→日中負荷の調整→併存への対応→再発予防(前ぶれ共有)の順で組み立てます。

  • このページは自己診断のためではなく、状況整理と支援の選択肢をまとめる目的の情報です。

受診の目安(まずはミニチェック)

次のいずれかが当てはまる場合は、早めの相談が役立つことがあります。

  • 睡眠が明らかに短くても元気に活動し続ける時期がある/夜更かしが止まらない
  • イライラや衝突が増え、家庭や学校での関係が悪化している
  • 落ち込みや無気力が続き、朝起きられない/登校しぶりが長引いている
  • 「元気すぎる時期」と「動けない時期」を行き来し、生活の波が大きい
  • 自傷、希死念慮、危険行動が疑われる(安全確保を優先し、早めの相談が必要です)
  • 受診=すぐに診断や薬、ではありません。経過を整理し、必要な支援から組み立てていきます。
  • 差し迫った危険があるときは119/110、迷う場合は地域の救急相談窓口(#7119等)も選択肢です。

はじめに|思春期の波と「病気としての波」

気分が明るい日と落ち込む日の差が大きく、イライラや不機嫌が続く。
思春期には誰でも気分の波がありますが、その波が長く続き、学校や家庭生活に支障が出てきた場合、「双極性障害(双極症)」が関わっていることがあります。

双極症は大人の病気というイメージが強く、情報も成人を前提としたものが多いのが現状です。
そのため子どもの場合、

  • 「体調が悪いだけ」
  • 「反抗期かもしれない」

と受け止められやすく、「病気としての気分の波」として整理されないまま時間が経ってしまうことがあります。

ここでは、子どもの双極性障害の特徴と、大人との違い、支援・治療のポイントをまとめます。

双極症とは|エピソードとしての「波」

双極性障害(双極症)は、気分を安定させる脳の働きが一時的にアンバランスになり、

  • 気分
  • 活動量・意欲
  • 思考のスピードやまとまり
  • 睡眠(量・質・リズム)

に、一定期間まとまりをもって「波(エピソード)」が生じる状態です。

単なる「気分の浮き沈み」ではなく、

睡眠覚醒リズムや活動性(エネルギー)の変化を含めて、日常生活機能に影響が出る状態です。

子どもでは、躁状態の時も典型的な“上機嫌でハイテンション”が目立たず、イライラ・衝突・睡眠の変化として表に出ることが少なくありません。

症状の現れ方|躁・抑うつ・混合

双極症の波は「気分」だけではなく、睡眠や活動量の変化がセットで出やすいのが特徴です。

(1)気分が高まる時期(躁/軽躁に相当)

  • イライラ・焦り・落ち着きのなさが強くなる
  • 口調がきつくなり、衝突が増える
  • 話が増える/考えが飛ぶ/予定を詰め込みやすい
  • 睡眠が短くても活動してしまう(夜更かし、深夜の過活動)

(2)気分が沈む時期(抑うつに相当)

  • 「疲れた」「何もしたくない」が増え、活動量が落ちる
  • 朝起きられない、登校しぶりが増える
  • 頭痛・腹痛など身体症状が続くことがある
  • 不眠だけでなく、過眠・過食として出ることもある

(3)混合状態(混合性)|「上がり」と「下がり」が混ざる

子どもでは、上がる時期・下がる時期がきれいに分かれず、混ざって見えることがあります。たとえば、

  • 落ち込みや不安が強いのに、焦り・落ち着かなさが目立つ
  • 眠れない/睡眠が削れているのに、思考や行動が加速してしまう
  • 自責感が強いのに、衝動的になりやすい

といった形です。

混合状態は本人のつらさが強く、周囲からは「反抗」「情緒不安定」に見えやすいことがあります。気分・睡眠・活動量を時間軸で整理し、必要に応じて安全面(自傷・危険行動)も含めて早めに評価することが大切です。

タイプ|I型・II型

双極症は、気分が高まる時期の強さにより概ね次のように整理されます。

  • 双極I型:躁状態がはっきりし、生活や安全への影響が大きくなりやすい
  • 双極II型:軽躁が中心で、うつ状態が目立ちやすい(本人も周囲も気づきにくいことがある)
  • 児童・思春期では典型どおりに分かれにくく、経過の中で見立てを更新することがあります。

発達段階の特徴|0〜18歳の見え方

乳幼児〜就学前(0〜5歳)

この時期に成人と同じ意味で双極性障害と診断されることは多くありません。
ただし、感情の上下が極端に激しい/睡眠リズムの乱れが長期間続く/日中の活動量の差が非常に大きい、といった場合には、発達の特性や家庭環境の負担も含めて慎重な評価が必要になります。

学童期(6〜12歳)

  • 学校では頑張れるが、家で反動が出て爆発が増える
  • 頭痛・腹痛を伴う登校しぶりが続く
  • 自己否定的な言葉が増える

思春期前期〜中期(12〜15歳)

  • うつ状態が中心に見え、合間に短い過活動や夜更かしが混ざる
  • 部活・受験・人間関係の負担で波が強くなりやすい
  • 無気力と焦りが交互に現れ、「自分でコントロールできない」と感じて苦しむ

思春期後期(16〜18歳前後)

  • 本人が気分の波をある程度自覚できるようになる
  • 睡眠不足、季節、低気圧、月経周期などの影響で波が大きくなることがある
  • 受験・進路の時期につまずき、抑うつが長引くこともある

併存しやすい困りごと|治療設計の中心になる「修飾」

臨床では、「双極症かどうか」だけでなく、何が重なって症状がどう修飾されているかを整理することが重要です。小児・思春期の双極症は併存が多く、併存の内容によって症状の見え方や悪化のきっかけ、治療の優先順位が変わります。

治療設計の基本(支援の優先順位)

安全の確保 → 睡眠・生活リズム → 日中の負荷調整 → 併存に応じた具体策 → 再発予防(前ぶれの共有) 

併存があると、病状はどう“修飾される”か

・ADHD特性:

衝動性や切り替えの難しさがベースにあると、波の時期に「衝突・予定の詰め込み・夜更かし」として加速が目立ちやすくなります。特性か波かを二択で急がず、

睡眠/活動量/期間(数日〜数週)

で時間軸をそろえて整理します(併存率は高いとされます)。

・ASD特性:

典型的な“上機嫌”より、易刺激性・過集中・睡眠の削れとして出やすく、環境調整(見通し、予告、感覚配慮、休息)の質が経過に影響します。

・不安(とくに抑うつ期):

抑うつが前面に出る時期に不安が増幅し、睡眠が崩れて回復が遅れやすくなります。まず睡眠・休息と負荷調整を土台にし、次に予告・選択肢・段階づけなど“不安を下げる具体策”を重ねます。

・学業不振 × ゲーム

抑うつが強い時期は、集中・開始・切り替えが落ち、学習や対人の負荷が急に重く感じられます。その結果、ゲームが①つらさを下げる自己鎮静、②短時間で得られる達成感、③距離のある交流の場として働き、没頭が増えることがあります。最初から全面禁止にせず、睡眠を守る枠→使用時間帯の固定→日中の回復行動の順で生活を立て直します。

・身体症状(頭痛・腹痛・だるさ等)

子どもの抑うつは、気分より先に身体症状が前面に出ることがあります。必要な身体評価を行いつつ、「気のせい」で片づけず、

睡眠の立て直し+学校配慮(遅刻・早退・別室・課題調整)

をセットで組み、生活機能の回復を優先します。

受診の目安(こんなときは一度ご相談ください)

  • 睡眠が明らかに短くても元気に活動し続ける時期がある/夜更かしが止まらない
  • イライラや衝突が増え、家庭や学校での関係が悪化している
  • 落ち込みや無気力が続き、朝起きられない/登校しぶりが長引いている
  • 「元気すぎる時期」と「動けない時期」を行き来し、学習や生活の波が大きい
  • 自傷、希死念慮、危険行動が疑われる(早めの相談が必要です) ※受診=すぐに診断や薬、ではありません。経過を整理し、必要な支援から組み立てていきます。

診断と評価|時間軸で整理する

双極症の診察では、単発の出来事で判断するのではなく、波(高まる/沈む/混ざる)がいつから・どれくらい続き、その間に生活(登校、家庭での衝突、学習、対人)がどう変化したかを時間軸で整理します。

あわせて、治療設計の中心になる睡眠(就寝・起床・総睡眠時間)と活動量、悪化の引き金になりやすい日中の負荷、そして併存(不安、ADHD/ASD特性、ゲーム、身体症状など)が症状をどう修飾しているかを確認します。

必要に応じて、気分×睡眠×活動量の簡単な記録でパターンを見える化します。 ※自傷・希死念慮・危険行動が疑われる場合は、安全面の評価を最優先に行います。

支援と治療|基本方針(3本柱)

1)生活リズムと休息(睡眠を“治療設計の中心”に置く)

早寝より「起床の固定」を優先し、朝の光・朝食・日中活動で体内時計を整えます。就寝前のスマホ・ゲームは、禁止ではなく睡眠を守るルール設計として扱います。

2)心理教育とセルフモニタリング(再現性のある対処に変える)

波の特徴(きっかけ、悪化パターン、回復に効く行動)を本人・家族で共有します。負荷が高い時期は「守ること(睡眠、食事、最低限の登校)」を決め、手放す課題を整理します。

3)薬物療法(必要なときに、慎重に)

気分の波が強く、生活や安全に支障が出ている場合には、気分安定薬や非定型抗精神病薬などを少量から慎重に用います。

  • 双極症が疑われる場合、抗うつ薬は状態によって慎重な判断が必要になることがあるため、見立てたうえで検討します(ガイドラインでも、躁転リスク等を踏まえた慎重な扱いが示されています)。

家庭でできる工夫|今日からできる3つ

  • 起床時刻を固定する(朝の光・朝食でリズムを作る)
  • “加速”のサインを共有する(夜更かし、予定詰め込み、話が止まらない等が出たら、負荷を減らし休息を増やす)
  • 記録を短く続ける(気分×睡眠×活動量を1〜2週間でもメモすると、説明と調整がしやすくなります)睡眠の「起床時刻」を守る(まずは毎日同じ時刻に起き、朝の光と朝食でリズムを固定する)

学校との連携|「怠け」と誤解されないために

子どもにとって学校生活は一日の大半を占めます。気分の波があると、欠席・遅刻・成績低下が「怠け」「さぼり」と誤解され、二次的に自己否定が強まることがあります。
学校と相談しながら、次のような合理的配慮を整えていきます。

  • 登校時間の調整(遅刻・早退・分散登校)
  • 課題量や締切の調整
  • テストや行事での配慮(別室・時間延長など)
  • 保健室・別室での休息スペースの確保 など

国内外のトピック|最近の流れ

近年、子どもの双極性障害は「大人の双極症の縮小版」ではなく、発達段階を通した連続体として理解する考え方が広がっています。
また、診断名だけでなく、生活機能(睡眠・登校・対人)の回復と再発予防(前ぶれの共有) を中心に治療を組み立てる流れが重視されています。

当院のスタンス|当院で何をするか

当院では、国内外の知見を踏まえつつ、日本の学校生活・受験・ご家庭の事情に合わせて、睡眠・生活リズムの立て直しを土台に、現実に続けられる支援に落とし込みます。

  • 生活リズム(睡眠)を土台に整える
  • 併存(発達特性、不安、ゲーム等)も含めて治療設計を組み立てる
  • 本人支援と保護者支援をセットで行い、再発予防(前ぶれの共有)までつなげる
  • 学校や関係機関と連携し、現実に続けられる支援に落とし込む

ことを大切に、治療と支援を進めていきます。

FAQ|よくある質問

思春期の「気分の波」と、双極性障害はどう違うのですか?

思春期にも気分の浮き沈みはありますが、双極症ではその波が続き、学校や家庭生活に明らかな支障が出ることがあります。
「元気すぎて夜眠らない時期」と「ほとんど起きられない時期」を行き来する/イライラや不機嫌が極端で家族が振り回される――といった 生活リズムと活動量ごと揺れる波 が続くときは、専門的な評価が役に立ちます。

薬は一度始めたら、ずっと飲み続けることになりますか?

状態が強い時期には、薬を「生活を立て直すための補助輪」として使うことがあります。状態が安定してくると、再発リスクや学校・受験の予定を確認しながら、減量や中止を検討していくのが一般的です。

学校は休ませたほうがよいですか? それとも、できるだけ行かせたほうがよいですか?

波が強い時期に無理をすると悪化しやすいため、遅刻・早退・別室登校・週○日のみ登校など、柔軟に調整しながら「続けられる形」を作ることが大切です。まず睡眠と生活リズムを立て直し、安心して通える形を優先して整えます。

参考文献|ガイドライン(抜粋)

  • 日本うつ病学会.双極性障害診療ガイドライン(2023)
  • WHO:ICD-11(Bipolar or related disorders)
  • APA:DSM-5-TR(Bipolar and related disorders)
  • AACAP(小児青年期双極症の評価・治療 Practice Parameter)
  • NICE(CG185: Bipolar disorder: assessment and management)

まとめ|次の一手

子どもの双極性障害(双極症)は、「性格の問題」や「甘え」ではなく、体質と環境の負担が重なって、心と体のリズムが大きな波を描いている状態です。

早めに気づき、家庭・学校・医療が連携して支えることで、気分の波そのものが完全に消えなくても、自分のリズムを理解しながら暮らしていく道筋を作っていくことができます。

「気分の波が激しすぎる」「反抗期だけではなさそうだ」と感じるときには、保護者の方だけで抱え込まず、相談の場を利用してください。

受診のご相談へ|相談の入口

当院では、気分の波を「その場の印象」で決めつけず、睡眠と活動量を含めた時間軸で整理し、生活を守る優先順位を一緒に決めます。
迷う段階でも、状況整理と支援設計の相談として受診いただけます。

監修・更新情報

監修:篠原一之(医師/医学博士/キッズハートクリニック外苑前院長/長崎大学医学部 名誉教授/長崎大学医学部 元教授)

最終更新日:2026年1月27日

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