子どものゲーム・スマホ依存とは|YouTube・SNSとの付き合い方と家庭でできる支援

はじめに|「中学生のスマホ依存・YouTube見すぎ」が心配な保護者の方へ 

「ゲームばかりしている」「スマホを離さない」「夜遅くまでYouTubeやSNSを見ている」。そんなお子さんの姿を見て、不安になったり、いらいらしたりする保護者の方も多いのではないでしょうか。

ただ、当クリニックに相談にいらっしゃる多くのお子さんは、医学的な意味での“依存症”には当てはまりません。
体調や気持ちが不安定なとき、
ゲームや動画が

  • 「今の自分でもできること」
  • 「嫌なことを考えなくて済むこと」

として選ばれていることがほとんどです。

私たちは、ゲームやスマホそのものを「悪」と考えるのではなく、

  • どのような気持ちのときに増えているのか
  • 睡眠・学校・人間関係にどのくらい影響しているのか

を一緒に整理し、
現実とのバランスを取り戻すことを目標にしています。

ゲーム依存症・ゲーム障害とは?

診断の基本

世界保健機関(WHO)は、ICD-11 で「ゲーム障害(Gaming Disorder)」を、
「日常生活よりもゲームを優先し、コントロールが効かない状態が持続すること」  

と定義しています。

アメリカ精神医学会(DSM-5-TR)でも、「インターネット・ゲーム障害」の診断上の要点は、単なる「ゲーム時間」ではなく、

  • ゲーム以外への興味・関心が大きく低下している
  • やめようとしてもコントロールが効かない
  • 学業・人間関係・生活リズムなどに明らかな悪影響が出ている

といった状態が、12か月以上続いているかどうかです。

世界の青少年の約3〜4%が診断基準を満たし(国際的なメタ解析)、日本の思春期児童の約15%が「ゲーム・ネット使用に関する困り感」を持つと報告されています。

ただし、臨床現場でこの基準を満たす重症例はごく少数です。

多くのお子さんは、

「ストレスや不安が強い時期に、ゲームや動画に一時避難している」

状態と理解した方が実態に近いと思われます。

実際には「ゲーム依存」より「スマホ依存・動画依存」が多い

「ゲーム依存かもしれない」と受診されても、実際にお話を聞くと、

  • スマホでの長時間視聴(YouTube・TikTok など)
  • SNS のチェックやチャットのやりとり
  • ゲーム実況や配信の視聴

が中心となっていることが多いようです。

多くの保護者の方は、

「宿題よりも動画。注意すると癇癪を起こすけれど、
見ている間だけは穏やかなんです。」と話されます

この「穏やかな時間」は、その子にとって、

  • 学校での緊張やしんどさから一時的に離れ
  • 「自分にもできる」「嫌なことを考えなくていい」状態に戻る

ための時間になっているのかもしれません。 私たちは、ゲームやスマホを単なる「悪」として切り捨てず、
「自己調整(セルフレギュレーション)の手段」としての大事な側面も忘れないようにしたいと考えています。

医師がみる「子どものゲーム・スマホ依存」

評価と治療の方針

医療の目的は、

「ゲーム・スマホをやめさせること」ではありません。

目指すのは、
睡眠・学業・人間関係とのバランスを取り戻すこと

です。

診察では、次のような点を整理していきます。

1.生活リズムの見立て

  • 1日の就寝・起床・学校・食事・自由時間の流れを確認。
  • どこでスマホやゲームをしているかを整理              

2.気分・不安・体調の評価

  • 不安症やうつ病
  • 起立性調節障害など体調の問題     

3.学校・家庭のストレス要因の共有

  • いじめ
  • 不登校
  • 進路不安
  • 家庭内の変化

などとの関係を、一緒に振り返ります。

4.発達特性の確認(ADHD・ASD など)

  • 集中のしにくさ
  • 切り替えの難しさ
  • こだわりの強さ

といった特性が、
「やめにくさ」を助長していないかを評価します。

心理的支援 心理的支援では、認知行動療法(CBT)や動機づけ面接(MI)の枠組みを使いながら、
「やめ方」ではなく「切り上げやすさ」を一緒に練習していきます

発達段階でみられやすい特徴

子どものゲーム・スマホの使い方は、年齢と発達段階によって「意味合い」が変わってきます。

乳幼児〜就学前期(0〜5歳)

この時期の端末使用は、
色や音などの感覚刺激への興味が中心です。

長時間視聴が続くと、
睡眠や言語発達への影響が指摘されています。

支援のポイントは、まず生活の土台作りです。

  • 親子で絵本を読む・歌う・遊ぶ時間を増やす
  • 就寝前の「入眠儀式」を整え、寝る前の端末使用を避ける

小学生期(6〜12歳)

「あと1回」「もう少しだけ」が増えやすい時期です。
YouTube やゲーム実況を見て落ち着こうとするなど、“動画や音で安心感を得ようとする行動”が目立つこともあります。

  • 学校の疲れから、まず動画で一息つき、そのまま長時間視聴になってしまう
  • オンラインゲームの友達とのつながりが、ほぼ唯一の「安心できる相手」になっている

こうした状態では、ルールよりも、
「何時までなら普段の生活が無理なく回るか」

を一緒に考える“合意型”の関わりが役立ちます。

思春期前半〜中期(12〜15歳)

SNS・動画・チャットが、生活の中心になりやすい時期です。

  • 「既読をつけないと悪く思われるのでは」という不安
  • 「学校ではうまく話せないが、オンラインなら本音を話せる」という安心感

が混ざり合い、夜間視聴や夜更かしにつながることがあります。

支援のポイントは、

  • 睡眠リズムの見直し
  • 登校リズムを段階的に再構築すること
  • SNS 上の人間関係のトラブルを一緒に整理すること

です。

思春期後期〜若年成人期(16〜20歳前後)

進路や人間関係の不安が高まり、

「オンラインが最も安心できる場所」になりやすい時期です。

  • 昼夜逆転で、生活の中心がゲーム・動画・SNS になる
  • オフラインの友人関係や通学が細り、孤立が進む

といった状態になる前に、

  • 活動スケジュールを一緒に整え直す
  • 学校と連携して、「現実世界の居場所」を増やしていく

ことが大切になります。

状況が悪化したときの対応|依存症治療モデル(MI・CRAFT)の活用

家庭内での衝突や昼夜逆転、不登校などが目立ってきた場合、
依存症支援の枠組みを参考にすると役立つことがあります。

・動機づけ面接(MI)

・家族支援プログラム(CRAFT)

などは、

  • 行動の背景にある感情の流れ
  • 家族の声かけ・対応のパターン
  • 本人が“変わってもよいかな”と思えるタイミング

を整理するための方法です。

「叱責や一方的な制限」から、

「一緒に考える関係」へと切り替えることで、
本人が自分のペースを取り戻す力を少しずつ育てることができます。

家庭でできるゲーム・スマホとの付き合い方の工夫

① 見方を変える:

「どのくらいの時間」より「どんな時に増えるか」

  • 何時間使っているかだけでなく、
    「どんな気分のときに増えるのか」を一緒に振り返る。
  • 見る・遊ぶ前後の気分や体調(疲労・安心・退屈・不安など)を、簡単なメモにして残すと、パターンが見えやすくなります。

② ルールは「命令」ではなく「合意」

  • 家族全員の使い方・場所・充電位置を共有し、
    「就寝1時間前からは、家族みんなリビングで充電」などシンプルなルールから始めます。
  • アプリ制限だけでなく、
    「終わりの合図」(声かけ・タイマー・次の予定)を決めておくと、切り上げやすくなります。

③ 現実の“報酬”を増やす(ゲームの中から現実へ)

  • 外出・運動・創作・ペットとの時間・ささやかなご褒美など、「現実の楽しみ」「安心できる活動」を意識的に増やします。
  • 「ゲーム以外でも安心できる自分」を少しずつ思い出していけるよう、子どものペースに合わせて提案します。

禁止や没収だけでは、

「隠れて使う」「家族関係の悪化」

につながることもあります。
「現実世界の心地よさ」を増やす方向の工夫が、

長期的には大きな助けになります。

社会・教育・医療の連携(国内外の動向)

欧米では、学校と医療機関が連携した

「デジタル・ウェルビーイング教育」が進んでいます。

  • 家庭での使用ルールを

 “子ども・保護者・学校の三者で共同設計する” プログラムなど

韓国や台湾では、

  • 依存症専門外来
  • 家族教育プログラム

を組み合わせた支援が標準化されつつあります。

日本でも、国立病院機構久里浜医療センターを中心に、

  • インターネット依存・ゲーム障害に関する家族支援プログラム
  • 医療者・学校・地域をつなぐ研修や連携体制

が整備され始めています。

当クリニックでは、こうした国内外の動向を踏まえつつ、

  • 重症化する前の早期相談
  • 家庭で実行可能な具体策

に力点を置いて支援を行っています。

当院でできること

当クリニックでは、

ゲーム・スマホに関するご相談について、次のような支援を行っています。

  • 行動・生活リズム・感情の見立て(簡易記録・睡眠日誌の活用)
  • ご家族とのカウンセリングと、「合意ルール」の設計
  • 学校や地域機関との情報共有と連携支援
  • 不登校・睡眠・発達特性(ADHD・ASD など)の併行支援
  • 依存症モデル(MI・CRAFT)を応用した行動支援プログラム

「デジタルを全面否定する」のではなく、
「その子にとってちょうどよい距離感」 を一緒に探していくことを大切にしています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 子どものゲームやスマホの使いすぎは病気ですか?
多くの場合、病気というよりも、ストレスや不安、退屈さの表れです。
まずは

「どのくらい生活に影響が出ているか」

「どんな気持ちのときに増えているか」

を一緒に整理することが大切です。

Q2. 何時間までなら大丈夫ですか?
「この時間なら絶対安全」という線はありません。

  • 睡眠
  • 登校
  • 家庭生活

が保たれているかどうか、

翌日に支障が出ていないかどうかを目安に考えます。

Q3. 親はどう関わればよいですか?
「今すぐやめなさい」と叱るより、

「どう終わると楽か?」

を話し合い、

  • 合意したルール
  • 終わりの合図(声かけ・タイマー・次の予定)

を決めることが、有効なことが多いです。

Q4. どのタイミングで受診したらよいでしょうか?

  • 昼夜逆転が続いている
  • 学校や人間関係に大きな影響が出ている
  • 家族だけで対応を続けるのがつらくなってきている

といった場合には、一度専門家に相談してみる時期と考えてよいでしょう。
受診=すぐに薬、というわけではなく、状況整理と生活の立て直しの相談から始まることがほとんどです。


「その子にとってちょうどよい距離感」 を一緒に探していくことを大切にしています。

   

参考文献・国内外のトピック(代表)

  • World Health Organization. ICD-11 Classification of Gaming Disorder, 2022.
  • American Psychiatric Association. DSM-5-TR: Internet Gaming Disorder, 2022.
  • Stevens MW et al. “Global prevalence of gaming disorder: a meta-analysis.” Addiction, 2021.
  • Twenge JM et al. “Digital well-being education and adolescent mental health.” Journal of Adolescent Health, 2023.
  • 国立病院機構 久里浜医療センター「インターネット依存症・ゲーム障害に関する家族支援プログラム」
  • 内閣府「令和5年度 青少年インターネット利用環境実態調査」, 2023年

おわりに|保護者の方へのメッセージ

ゲームやスマホは、今の子どもたちにとって、

友人とつながり、世界とつながる大切な窓です。

それを一方的に「悪いもの」と決めつけてしまうと、

子どもが安心できる場所を失ってしまうことがあります。

大切なのは、

「何時間使っているか」ではなく

「どんな気持ちで使っているのか」

「現実の生活がどの程度守られているか」

を一緒に見ていくことです

禁止より理解、叱責より対話。
その積み重ねが、ゲームやスマホとのちょうどよい距離を見つける近道になります。

「本当にこのままでいいのだろうか」と悩まれるときには、
病名を急ぐのではなく、まずは一緒に状況を整理する場として、専門機関を活用していただければと思います。

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