目次
腹痛や頭痛が続き、検査で「異常なし」と言われたときも、症状は本人にとって現実のつらさとして続いています。本ページでは、安全の見極め、背景の考え方、生活を少しずつ立て直す方法、相談の目安を整理します。
要点
- 「検査で異常なし」=「気のせい」ではありません。症状は現実に起こっています。
- 評価は症状だけでなく、睡眠・食事・活動量・学校負荷・不安や回避などをセットで整理します。
- 目標は「症状ゼロ」より先に、「登校や日中活動が戻る条件を段階的に整えること」です。
- 当院では見落とし回避(安全)と、段階的な機能回復(支援)を両輪で進めます。
※このページは自己診断のためではなく、状況整理と支援の選択肢をまとめる目的の情報です。
受診の目安
- 数週間〜数か月、腹痛・頭痛・吐き気・だるさで欠席や早退が続いている
- 小児科で「検査では異常なし」と言われたが、欠席・遅刻・早退が増え、朝の起床や食事、日中の活動が保てない状態が続いている
- 「休ませる/行かせる」で家庭が消耗し、対応が分からなくなっている
- 不安・不眠・落ち込みが重なっている(強い不安で外出や登校を避ける/気分の落ち込みが続く/自傷や希死念慮が心配な場合は安全確保を優先して早めに)
- しびれ、脱力、歩行の崩れ、発作様症状などが加わっている(FNDの鑑別も含め整理が必要)
※意識がもうろうとする、けいれん、麻痺、強い頭痛の急な出現など、急性の症状がある場合は救急受診を優先してください。
※ページ末尾の「受診のご相談へ|相談の入口」に、当院での進め方もまとめています。
はじめに|症状の理解
「朝になるとお腹が痛い」「頭が重くて動けない」「吐き気がして学校に行けない」。
小児科で血液検査や画像検査をしても「異常はありません」「様子を見ましょう」と言われ、本人もご家族も行き場のない苦しさを抱えることがあります。
ここで大切なのは、“仮病かどうか”の議論に終わらないことです。児童精神科では、からだ・こころ・環境を一緒に見直し、症状が続く仕組み(悪循環)をほどき、「生活を回復させる順番」を組み替えることから始めます。
相談できること
- 身体症状症や機能性身体症状(FSS)が疑われる症状の背景整理
- 腹痛、頭痛、吐き気、だるさなどが続くときの生活への影響の確認
- 不安、睡眠、学校負荷、発達特性、起立性調節障害(OD)など、重なりやすい要因を含めた見立て
- 家庭での支え方、学校への伝え方、段階的な生活再建の組み立て
- 必要に応じた心理支援、学校連携、小児科など他科との連携
初診では、どの症状がいつ強まりやすいか、登校や日中活動への影響、睡眠や食事の崩れ、不安や回避、学校や家庭の負荷、発達特性や身体面の要因も含めて確認し、症状への安全確認と生活回復の順番を一緒に考えます。
身体症状症とは
子どもの身体症状症は、腹痛・頭痛・吐き気・だるさなどの身体症状が続き、登校・睡眠・食事・日中活動に影響が出ている状態として整理します。検査で重大な異常が見つからない場合でも、本人にとって症状は現実のつらさであり、生活への影響を丁寧に評価することが大切です。
いわゆる「身体表現性障害」は、現在の診断分類では主に身体症状症(Somatic Symptom Disorder)や関連する概念として整理されます。ICD-11では「身体的苦痛症(Bodily distress disorder)」という枠組みで記載されています。
ポイントは、「症状がある/ない」よりも次の3点です。
- 登校、睡眠、食事、活動などの生活機能が落ちている
- 症状がつらく、本人の努力だけでは整えにくい
- 不安、睡眠、学校環境、発達特性などが絡み、悪循環が固定化している
「検査で異常なし」からといって、「気のせい」ではありません。また、「心の問題」=本人の弱さ、という意味でもありません。一方で、見落としてはいけない身体疾患があるのも事実です。だからこそ、安全の確認(必要な医学的評価)と支援設計(生活再建)を分けて丁寧に進めます。
症状の現れ方
子どもでは「落ち込み」よりも、体の訴え+行動(欠席・遅刻・保健室利用)として表に出ることがあります。
また、登校前、教室、行事、発表、テストなど学校場面と連動して悪化しやすい傾向があります。ここに誤解や叱責が重なると、欠席・活動低下・睡眠の崩れが加わり、悪循環が固定化して二次的な困りごとにつながることがあります。
よく見られる症状(例):腹痛、吐き気、食欲低下/頭痛、めまい、だるさ、疲労感/動悸、息苦しさ(緊張場面で悪化)/肩こり、筋肉痛、全身の違和感 など
年齢別の見え方
乳幼児〜就学前(0〜5歳)
言語化が難しく、ぐずり、登園しぶり、睡眠・食事の崩れとして出やすい時期です。まず「安心できる流れ」と「生活リズム」を整えることが中心になります。
学童期(6〜12歳)
症状そのものより、「登校前に悪化して欠席・遅刻が増える」「保健室利用が続く」「家庭が“休ませる/行かせる”で消耗する」といった“生活の圧迫”として目立ちやすい時期です。ここでは二択ではなく、保健室・別室・短時間など段階的な“階段”を作って回復の条件を整えることが有効です。
思春期前半〜中期(13〜15歳)
だるさ、めまい、吐き気などが重なりやすく、睡眠の崩れも重なりやすい時期です。我慢が続いた後に一気に欠席が増える、という形もあります。
思春期後期(16〜18歳前後)
受験・進路・対人関係の負荷が重なり、長期化しやすい時期です。出席・単位・通学手段など“生活の再建”も同時に設計します(回復の階段を作ります)。
背景|悪循環
身体症状は単一の原因で説明できないことが多く、臨床的には次の要素が重なって悪循環になります。
1)不安・緊張と身体反応
不安が強いほど、胃腸・頭痛・動悸などの身体反応が出やすくなります。「また痛くなったらどうしよう」が回避(欠席・活動低下)を強め、体力と自信が落ちるループが生まれます。
2)睡眠不足・生活リズムの乱れ
睡眠の乱れは、原因にも結果にもなります。寝不足→痛み・だるさ→欠席→昼夜逆転→さらに不調、という形で固定化しやすいです。
3)学校負荷(人間関係・評価・行事)
教室、特定の先生、テスト、部活など、負荷の場面がはっきりしていることもあります。ここを曖昧にしたまま押し切ると、悪循環が深まりやすくなります。
4)発達特性(ASD/ADHDなど)と過負荷
感覚過敏、切り替えが苦手、実行機能(段取り)の弱さがあると、学校生活そのものが慢性的な過負荷になります。「頑張っているのに追いつかない」状態が続くほど、身体症状として出やすくなります。
5)起立性調節障害(OD)など身体側の要因
ODがあっても、それだけでは説明しきれない不調(不安・回避・生活崩れ)が絡むことがあります。身体と心理の“どちらか一方”に寄せすぎず、全体像で支援を組み立てます。
鑑別|神経症状
保護者の方が混乱しやすいのが、「しびれ」「動けない」「けいれん」が出たときです。
FNDに関連する神経症状の例
- 体が動かない(麻痺・脱力)
- 歩行が崩れる/立てない
- 声が出ない/目が見えない
- けいれんのように見える発作(機能性発作/PNESを含む)
- 感覚の異常(しびれ、触っても感じにくい等)
身体症状症と考えやすい一般身体症状+悪循環
- 腹痛、頭痛、吐き気、倦怠感などが中心
- 「症状が怖い→行動が狭まる→生活が崩れる」が前景に出やすい
「しびれ」はどっち?
しびれは、どちらにも入り得ます。重要なのは、神経症状の文脈(麻痺・歩行・発作)として出ているのか、生活機能低下の中心が一般身体症状+不安・回避なのかを含め、全体像で判断することです。臨床では、線引きに時間を使いすぎるより、回復に必要な支援設計を優先します。
診断と評価|確認点
当院では、見落とし回避(安全)と、支援設計に必要な情報整理を目的に、次を確認します。
- 症状の経過とパターン(増悪条件、日内・週内の波)
- 生活機能(欠席・遅刻・早退、睡眠、食事、活動量、家庭の負担)
- 心理・行動の要素(不安・回避・安心確認など、悪循環の要素)
- 併存と背景(不安障害、抑うつ、強迫、PTSD反応、睡眠障害、OD、発達特性、学校負荷など)
- 必要時の鑑別(しびれ/脱力/発作様症状など:FNDを含め整理し、必要に応じて連携)
短い動画や、欠席・睡眠の簡単なメモがあると、症状のパターンを共有しやすく、評価が安定します(可能な範囲で構いません)。
支援と治療
身体症状症の支援は「気合」ではなく、再現性が鍵です。
1)環境調整(家庭・学校)
- 予定の見える化、負荷の分解、休み方のルール化
- 学校:保健室・別室・時間短縮・課題調整など、段階的な“階段”を作る
2)心理的支援(心理教育/CBTなど)
- 症状と不安・行動・環境のつながりを整理する
- 「症状をゼロ」より「生活を戻す」目標に変換し、活動範囲を段階的に回復させる
3)家族支援
- 「どこまで手助けし、どこから見守るか」を具体化する
- 家庭内が“症状をめぐる会議”だけにならないよう、役割と対応を整える
4)薬物療法(必要に応じて)
不安・不眠・抑うつが強い場合に、心理支援と環境調整の補助輪として慎重に検討します。中心はあくまで、生活設計と心理的支援です。
学校での配慮
「休ませる/行かせる」の二択ではなく、段階づけが現実的です。
無理に押し切ると悪循環が強まることがある一方、休みが固定化すると生活リズムが崩れて回復が遠のくこともあります。
保健室・別室・短時間登校・特定授業のみ参加・課題調整など、“階段”を作って少しずつ戻す方法を検討します。
家庭での工夫
「気のせい」「甘え」といった扱いは、本人の安心を奪い、回復を難しくします。
大切なのは、症状を否定せずに受け止めつつ、睡眠・食事・活動の土台を整え、家庭の対応を一定にすることです。家庭が疲弊している場合は、まず家族の役割分担を整理すること自体が治療になります。
当院のスタンス
当院では、身体症状を「こころか、からだか」の二択で判断せず、症状の経過、生活への影響、学校環境、不安や睡眠、発達特性、身体面の要因を時間軸で整理します。
大切にしているのは、身体疾患の見落としを避けることと、検査や原因探しだけで長期化しないようにすることの両立です。必要に応じて小児科などとも連携しながら、安全確認と生活回復の順番を一緒に検討します。
症状をすぐにゼロにすることだけを目標にせず、まずは睡眠、食事、日中活動、登校の条件を少しずつ整え、家庭と学校で続けられる支援に落とし込むことを重視します。
よくある質問|FAQ
Q. 検査で異常がないのに、なぜこんなにつらいのですか?
A. 「異常がない」は「症状がない」と同じではありません。胃腸や自律神経、筋緊張などは、睡眠不足や不安、緊張で反応が強まり、検査で“病変”が見つからなくても症状は起こり得ます。大切なのは、症状を支える悪循環(睡眠・不安・回避・学校負荷など)を整理し、生活機能を回復させる順番を作ることです。
Q. 学校は休ませた方がいい?行かせた方がいい?
A. 二択ではなく「段階づけ」が基本です。保健室・別室・短時間登校など、学校と相談しながら回復の階段を作ることが役立ちます。
Q. 「心の問題」と言われるのが怖いです。本人にはどう伝えればいい?
A. 「気のせい」や「弱さ」ではないことを先に伝えるのが大切です。たとえば「体と心はつながっていて、緊張や疲れで体の反応が強くなることがある。だから整え方を一緒に探そう」という説明が有効です。責める方向ではなく、“仕組みを理解して対策する”方向で話すと、本人の安心につながります。
Q. 起立性調節障害(OD)や貧血と、どう見分けますか?
A. まずは小児科などで身体側の評価が大切です。そのうえで、ODがあっても「不安・回避・生活崩れ」が絡むことがあり、身体と心理の両面から全体像を整理するほうが回復につながりやすい場合があります。
Q. 薬を使わずにできることはありますか?
A. 生活リズム(睡眠・食事・活動)と負荷調整(学校の“階段”づくり)に加えて、症状の仕組みを共有する心理教育や、段階的な活動回復の工夫が中核になります。薬は必要に応じて補助輪として検討します。
国内外のトピック
子どもの身体症状は、近年、単に「こころの問題」や「検査で異常がない症状」として扱うのではなく、からだ・こころ・生活環境が相互に影響し合う状態として理解する考え方が広がっています。
国際的にも、身体症状が続く場合には、症状名を当てはめることだけでなく、登校、睡眠、食事、日中活動、家族や学校との関係など、生活機能への影響を丁寧に評価することが重視されています。
支援では、症状をすぐにゼロにすることだけを目標にせず、安心できる説明、生活リズムの立て直し、段階的な活動再開、家庭・学校との連携を組み合わせていくことが大切です。
参考文献
- World Health Organization:ICD-11(Bodily distress disorder 等)
- American Psychiatric Association:DSM-5-TR(Somatic Symptom and Related Disorders)
- Royal College of Psychiatrists:Bodily Distress Symptoms in Children and Young People(Guide)
- Canadian Paediatric Society:Somatic symptom and related disorders(Position statement)
- 日本小児心身医学会:小児心身医学会ガイドライン集(改訂版)
関連ページ
まとめ|次の一手
身体症状症は、「気のせい」でも「甘え」でもありません。心身の負荷が限界に近づいたときに、からだが先に知らせる形で出ることがあります。
大切なのは、原因探しを長引かせるより、生活を取り戻す条件を一緒に整えることです。児童精神科は「病名をつける場所」だけではなく、状況を整理し、支援の仕方を決める場です。
受診のご相談へ|相談の入口
腹痛、頭痛、吐き気、だるさなどが続き、小児科では大きな異常がないと言われても、登校や日中活動が回りにくい状態が続くことがあります。「休ませた方がよいのか」「学校に行かせた方がよいのか」「このまま様子を見てよいのか」と迷われるご家庭は少なくありません。
当院では、症状の有無だけでなく、いつから続いているか、どの場面で悪化しやすいか、睡眠・食事・活動量・学校生活・家庭の負担にどのような影響が出ているかを整理します。必要に応じて、不安、抑うつ、睡眠障害、起立性調節障害、発達特性、FNDなども含めて全体像を確認します。
診断名を急ぐのではなく、まずは安全確認を行いながら、生活を少しずつ立て直す順番を一緒に考えるところから始められます。気になる状態が続くときは、一度ご相談ください。
※自傷や希死念慮が疑われる場合、意識がもうろうとする、けいれん、麻痺、強い頭痛が急に出た場合などは、安全確保と救急受診を優先してください。
監修・更新情報
監修:篠原一之(医師/医学博士/キッズハートクリニック外苑前院長/長崎大学医学部 名誉教授/長崎大学医学部 元教授)
最終更新日:2026年2月7日